ハッとして振り向くと陰が立っていた。
「ウィスキーは如何?」
スーツをきっちり着こなした男がトレーにグラスを乗せてすぐ後ろにいた。
「いらないよ、気分じゃないんだ」
似合わないドレスを引きずって走った。
どこに向かえばいいんだろう。
知ってるものなど何もないのに何を求めているんだろう。
怖くなった。
後ろを振り向けば男はまだ突っ立っていた。
「如何?」
まったく変わらぬ笑顔で問う。
「…いただこうかな」
焼けるような喉の痛みと癖の強い匂いに眉をひそめた。
「…強すぎる」
目のくらみを感じて跪くが、朦朧とした視界の中でも男の顔は同じ笑顔が貼りついたままだった。
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